岩美町の「生姜せんべい」復活
伝統の味を継承

各地域にある“伝統の味”。皆さんも、子どもの頃から慣れ親しんできた味があるかもしれませんね。味を引き継ぐというのは意義深いことですが、そう簡単なことではありません。やむを得ずお店をたたむという話も珍しくありませんが、鳥取県岩美町では、老舗和菓子店の味を継承して「生姜せんべい」が復活しました。2年ぶりの復活に、地元からは喜びの声が聞かれます。
■生姜せんべいとは?
生姜せんべいは、小麦粉と卵で作った生地を人の手で一枚一枚薄く焼き上げ、両面にショウガ砂糖を塗ります。ぱりぱりとした食感と生姜のさわやかな香りと甘みが特徴で、鳥取県東部を代表する菓子として知られています。鳥取県岩美町では2023年4月に閉店した和菓子店「伊藤一心堂」(鳥取県岩美町岩井)で製造されてきました。
■復活の経緯 一から製法を学ぶ
味を継承したのは、店主の親戚にあたる伊藤智子さん。伊藤さんは高校卒業まで岩美町内で過ごし、生姜せんべいにも幼いころから慣れ親しんでいました。鳥取県内の福祉施設で20年以上勤務していましたが、起業しようと2024年2月に退職。どのような仕事をしようか考えていたころ、親戚の伊藤一心堂の店主から「試しに(生姜せんべいを)焼いてみないか」と持ちかけられたそうです。
「最初はちょっとやってみようという程度でした」と伊藤さん。しかし、繰り返し焼くうちに「この味を残したい」と強く思うようになったといいます。その後、店主の下で週に数回製法を学びながら、和菓子の基礎を学ぶため島根県菓子技術専門校(松江市)に通い、約1年かけて準備を進めました。そして、実家を改装して店を構え、2年の空白期間を経て伝統の味が今春、復活しました。
■地元から喜びの声
今年4月に鳥取県岩美町岩井で、和菓子屋「お菓子 とわ」をオープン。地元の人たちからは「懐かしい」「また食べることができてうれしい」と復活を喜ぶ声が多く寄せられています。
現在は両親と3人で店を切り盛りしており、一日当たり約200枚焼き上げる傍ら、手軽に食べられる5枚入りを売り出すなど、新たな試みにも挑戦しています。伊藤さんは「今後は少しでも多くの人の手に取ってもらえるような販売方法を模索したいです」と意気込んでいます。
思い出の味との“再会”は、岩美町の人々を笑顔にしています。これからも長く愛される地元の味になりそうです。
(※この記事は日本海新聞本紙に掲載されたものを基に作成しています)