講演録 鳥取の森と都市木造の展望とその共生
東京大学生産技術研究所 教授 腰原 幹推 氏
鳥取県木材協会は、東京大学生産技術研究所 教授 腰原幹推 氏を招いて、講演会を行いました。腰原教授は「鳥取の森と都市木造の展望とその共生」と題して講演し、参加者へ木造建築物の普及を促進するためのアドバイスなどをしました。


都市木造はまだ発展途上です。木材の需要を増やすために、非住宅や都市型の住宅を増やそうとする動き自体は2000年から始まっています。
木造建築は、思ったほど定義されているわけではありません。僕が思う木造建築は、どんな形でもいいから木を使っているものです。いつも同じではなく時代に合わせて、使い方を変えれば良いと思っています。
鳥取での使い方について、それぞれの立場から考えてもらえればと思います。施主さんに「木造で作りたい」と思ってもらえるようにしなければなりません。木をどうやって使ったら良いかを考えてみましょう。伝統技術だけでなく、その先に進むにはどうしたら良いか。伝統や慣習を知った上で、どう使っていくかを考えることが大事です。
移り行く林業界
1980年代後半に建築基準法が変わりました。大きい木造の建物を造っていいことになり、床面積がたくさんある伸び伸びとした建物が造れるようになりました。体育館や美術館、博物館、ドームと言われる建築が大きい屋根で造られるようになり、新しい需要が生まれました。もう一つ、木造でも構造計算ができる世界が生まれました。これまでは、大工さんの経験に基づいて造られてきました。でも大空間になると、大工さんは造ったことがないため、経験則が通用しません。それによって構造設計が必要になりました。
それまで、構造計算ができなかった理由として、木の材料にばらつきがあることが挙げられます。昔は大工さんがその木を見て、よしあしが分かったわけです。でも現代は難しい。そういう目がなくなると、製品の保証や材料の質を上げてほしいとなります。こうなると木質材料が出てきます。品質保証をしてくれる材料です。
大断面集成材のすごさは、曲がり材からラミナを使って再構成することで長い材が作れることです。大きくて長い材がたくさん手に入り、ヤング率強度が安定している点が売りです。それを使うことで、構造計算ができるようになりました。
木造建築の可能性広がる
そして大きな空間だけでなく、3階建の木造建築が造れるようになり、ここでラーメン構造が生まれました。時代の移り変わりとともに、新しい種類や技術が次々出てくるが、どこかが特許を取ると特定の人しか使えない、しかも高価なものになってしまいます。そこで新しい技術を普及させるのは民間主導ではなく、地域や皆で共有する仕組みづくりが大切です。
鳥取県で取れる材料のヤング率など性質を知っていないと駄目です。使う側としては、商品の説明書がほしいですよね。こうやって川上から川下まで皆さんが集まって会を設けるのは大事なことです。情報があれば構造計算は大変ではありません。使う要素が分かれば容易ですが、どんな材料でも何でもできるようにするのは大変なことです。使う樹種や使う金物を減らすと誰でも簡単構造計算にできます。もう一つ基本技術として覚えておいてほしいのが、ボルト接合です。木と木をボルトで繋ぎましょうというもの。木よりちょっと強い鉄がちょっと曲がるくらいの力配分がベストです。
もう一つ生まれた技術が、燃え代設計です。準耐火構造ですね。木は燃えますが、じわじわと燃えます。1分間に1㎜くらいなので、逃げる時間を確保することが第一条件です。消防法上は消火活動をしたいわけです。消防と建築でのギャップはあります。45分~60分建物が建物の形でキープできれば、逃げたり消火活動もできます。木の性能を上手く理解すれば、火事に強い3~4階の建物が燃え代設計ではできると思っています。
具体的に町の中にある建物をみてみましょう。木造でしたらこうなると一つずつ提案してみましょう。集合住宅、マンション、学校、商業施設…さまざまなケースが考えられます。
1つ目の宿題は、鳥取でどういう用途のものを木造にしたら喜ばれるかを考えることです。または、どういう建物だったら鳥取で造りやすいかを考えましょう。
2つ目は、どんな材料を使うか。木質材料は、構造計算ができる材料特性が保証されたもので、集成材やLVLが主流ですが、やはり製材も使いたくなります。そこで、JAS構造材が生まれました。昔は設計者が木を見て性能を保証してくれていたが、現代は機械的に把握して提供しています。ヤング係数を測定してバラつきを把握して、製材して構造計算ができます。地元にある木を使いやすくしようという活動ですね。
木材は性能が分からないと言われるなら、性能が分かるようにすれば良いじゃないか。全数検査をするようになりました。バラつきを把握して性能を満たしたものだけを使えば、製材でも構造計算ができます。だからJAS構造材製材が生まれました。これは地元の木を使いやすいようにという活動でもあります。
建築基準法と木材利用の未来
建築基準法は変えられますし、新しいルールもできます。もっと使いやすいJAS構造用製材ができるかもしれません。現在は工場認定ですが、小さい工場だとできません。そこで部材認定ができないかという議論が出ています。そうすると製材でもアーチ構造やトラス構造が製材でもできるようになります。
全国で言えることですが、トラスなどを苦労して造っても、みんな使うのは一回限りです。バリエーションが必要です。自由すぎると苦労とお金がかかります。どれだけ自由を抑えられるかが課題の一つではないでしょうか。不自由ではない制約をつくることが、システムの構築につながります。
木材のもう一つの問題は、使う材料によって工法が違うことです。CLTなどいろいろとありますが、例えばCLTという概念ではなく、木を束ねて厚い板を作ればCLTと同じように壁や床が作れる。そうなると設備はいらないが人力は必要となる。工場に投資するのか、労働力で勝負するか。良いか悪いかではなく、このチームにとってどの方法が一番良いのかを考えましょう。今までの木の使い方とは違うチームを造っても良いのではないでしょうか。
今は、ゼネコンが大きな建物を木造にしようと、技術開発が進んでいます。平屋の大空間や4、5階建てのビルも大断面集成材でできる世界を造っています。鳥取はどのような規模を、どの材料で建てますか?全国的にいけば、大きい断面は集成材かLVL、柱梁は集成材LVL、床はCLT合板です。集成材やCLTは、B材活用が目的だったのに、今やA材にも広がっています。根本的に考えないといけません。建築業界でいまだに間伐材は使い道がないから安いと言っていますが、間伐材は単なる行政用語のような気がしてなりません。そもそも主伐材はどれなんだという話です。間伐材がA材の価値を下げている気がします。無垢の製材に使う木材の良さや価値を言わなければ、集成材やCLTでいいのではという建築家もいます。
鳥取の街をどうデザインするか
皆さんへの宿題は木材の魅力と普及について、どこを目指すかということです。全国的には3階建ての学校がターゲットになっています。学校なら木造だと反対しないし、地元も盛り上がります。東京では5階立ての木造学校があります。
大きいフレームは大きい会社、小さいフレームは地元の企業がするというのが一つの答えかもしれません。メリットは、大きい部材は半永久的に使うことです。小さい部材は模様替えや傷んだら交換しようと耐用年数が低いもので作ってもいいかもしれません。メンテナンスは小さい仕事だけどやっていくべき仕事。そのたびに県外に依頼するのは大変です。メンテは地元の人がやる仕組み、地元の材料で地元の大工さんできる仕組みが重要です。
木を使う場所はたくさんあります。仕上げ材としての木もあります。一番やってほしいのは、カーテンウォールです。外から見た時の印象が違う。仕上げ材として木材がどうなってくるのかという世界でもあります。
建築に使う木材、住宅用流通製材がメインです。最近CLTが流行っていますね。昔は公共施設には太い材を使って、地元の木を使ったとアピールしていたのに今は細い材を沢山使った方がかっこいいということもあります。もう一度、大径材を復活させてはどうでしょうか。一つは大断面材集成材ではなく、中断面材集成材シリーズを入れた組立て材で作る新しい規格も良いと思います。そして皆さんで共有できる仕組みが大事です。この地域をこういう風景にしたいという意見を出し合って、実現するためにはどういう技術や材料が必要なのか、どうしたら良いか考えていくと、街の風景は変わっていきます。皆同じ方向を向くのは難しいと思うので、仕上げ材や家具など、それぞれが関わるものを意識してもらえればと思います。鳥取県はどんな街を目指すのか。そのために山は何をするのか 建築は何をするのかを考えてほしいです。
